モンゴルのエルベグドルジ前大統領(54)が昨年末、ウランバートルで毎日新聞のインタビューに応じた。大統領在任中から安倍晋三首相と親しく、何度も日本を訪問した親日派として知られる。日本のモンゴルに対する各分野での協力に改めて謝意を表すとともに、両国関係強化の重要性を繰り返し強調した。【ウランバートルで工藤哲、金寿英】
--日本との関係についての認識は。
モンゴルはロシアと中国という大国に囲まれ、それ以外の国とは離れている。モンゴルにとって各国と良好な関係を築くことは、国の独立を維持し、経済を発展させるためにも大切なことだ。
とりわけ、日本との関係は重要だ。モンゴルと日本は1972年に国交を樹立し、70~80年代は多少の交流はあった。ただ、当時のモンゴルは社会主義体制だったため、それほど友好的な関係ではなかった。
だが90年代に民主化した後、関係は変わった。経済的に苦しい時期に、日本は手を差し伸べてくれた。例えば、ウランバートル地域の暖房整備につながる火力発電所の改修協力や学校建設などを支援してくれた。公共バスや道路、空港建設に至るまで、すべてが日本の協力でできていると言っても過言ではない。
文化的な絆も強い。モンゴルで、テレビドラマ「おしん」を見たことがない人はほとんどいない。モンゴル国民の大多数が日本の大相撲中継に親しんでいる。多岐にわたって関係を深めることができた。外交の成功例と言ってもいいだろう。
--両国の外交関係の現状をどうみるか。
日本と深い友好関係を築いたことにより、モンゴルは(中露から)独立した国として発展できている。これは日本とモンゴルにとって大きな有益性がある。私が大統領時代、各国の要人や側近たちに伝えていたことは「日本と付き合う時、警戒すべきことなど何もない。日本と関係を持つことは、すべてにおいて素晴らしい」ということだった。
2016年に両国間で関税の撤廃や削減を含む経済連携協定(EPA)が発効したことも大きな成果だ。また私が大統領在任中だった10年春には、日本人であれば、渡航目的にかかわらずモンゴル訪問時のビザを30日以内なら免除した。
私はこうした積み重ねによって、日本との協力関係の基礎を築いたことを誇りに思う。両国の友好関係は、だれが大統領に就任したとしても揺るがないものだ。
--09~17年の大統領在任中、安倍首相とは日本やモンゴルで何度も会談を重ねてきた。
在任中、多くの首脳と会う機会があった。その中でも、最も親しく、良い話ができたと思える首脳の一人が安倍首相だ。安倍氏は首相としてはモンゴルを3度訪問しており、1年で8回ほども会ったことがある。安倍首相は北朝鮮による日本人拉致事件の解決を非常に気にしていて、「このことは常に考えている」とよく口にしていた。
--退任後の活動は。
現在はモンゴルの民主化の歩みについて研究するグループを組織している。民主化によるメリット、反省点はどんなことだったのか。東南アジア、また中央アジアの国々の人がモンゴルの歩みに強い興味を持っていると聞いている。こうした研究活動を発展させていきたい。また、ウランバートルの大気汚染や各地の自然破壊が悪化しているので、改善に向けた取り組みも続けていきたい。日本は多くの公害を克服した経験があるので、協力を願えればと思う。
日本、支援の先頭に 近年、中国が存在感
モンゴルは1990年代、社会主義経済から市場経済に転換し、民主化の過程で厳しい経済運営が続いた。この時期から日本はモンゴル支援を主導し、91年からは東京でモンゴル支援国会合を複数回開催してきた。
支援の分野はモンゴルの主要産品であるカシミヤの加工工場建設に始まり、鉄道や道路、空港などの整備が中心だった。現在新国際空港の建設が進んでおり、この空港の完成により、各国からの観光客が増加し、豊かな自然で知られるモンゴル観光業の一層の活性化が期待されている。
最近では、ウランバートルで悪化する微小粒子状物質(PM2・5)による大気汚染への対応策でも協力する。日本式の高等専門学校(高専)も開校し、工業分野の優れた人材の育成も進む。
一方、この10年ほどで、外国からの巨額の投資が相次ぎ、2011年には17・3%の経済成長を記録。特に中国マネーの影響力が顕著で、最近の輸出の9割以上が中国だ。モンゴル経済の中国依存度が高まっている。
過去にモンゴル支援の先頭を走ってきた日本だが、最近の投資や経済交流は中国に押され気味で、モンゴル側から不満の声も聞かれるようになった。モンゴルの閣僚経験者は、モンゴルの家畜の乳製品や肉などの輸入量を増加させるよう日本に求める。ビジネスを支えるための日本-モンゴル間の直行便の数も「まだまだ足りない」と指摘する。
スポーツ交流では日本の大相撲でのモンゴル力士の活躍が有名だ。これに加えて、最近では野球をモンゴルに根付かせようという動きも活発になってきた。
その旗振り役が、かつてモンゴルで外相を務めたロブサンワンダン・ボルド氏。毎日新聞の取材に対し「モンゴルではこれまで、スポーツといえば相撲などの個人競技が一般的だった。国を発展させるにはチームワークが必要なので、野球の楽しさを若者に広げることで、協力する大切さを知ってもらいたい」と話している。
文化面では、作家の司馬遼太郎氏や開高健氏、椎名誠氏の作品が知られている。音楽では、16年にモンゴル国文化大使に任命された歌手の八代亜紀さんがウランバートルでの「文化交流コンサート」に出演するなど交流を続けている。
情報元:毎日新聞